<ブラジル代表新監督> ドリヴァウ・ジュニオール(Dorival Júnior, 1962)[2024.3.1投稿]

投稿者: | 2024年3月1日

監督紹介

ブラジル 代表 監督 コパ・アメリカ2024
   2024年3月の国際親善試合で初めて代表の指揮を執るドリヴァウ・ジュニオール(Dorival Júnior, 1962)監督。
   ブラジル標準時間 2024年3月1日 13:00 に、この国際親善試合に向けた代表招集選手の発表が予定されており、それに先立ってドリヴァウ・ジュニオール監督の経歴や特長を紹介します。

【主な経歴】

<選手時代>

   現役時代のポジションはボランチ。1982年に中堅クラブ、フェホヴィアリアでデビューすると徐々にキャリアアップを果たし、1989年に名門パウメイラスに入団、1992年まで4年間主力として活躍。
   1999年シーズン、ボタフォゴ-SPでのプレーを最後に現役を引退。
   通算成績は、パウメイラスでの157試合4得点など、18年間で544試合21得点(Wikipediaポルトガル語版参照)。

<監督(2002[フェホヴィアリア] - 2009[ヴァスコ・ダ・ガマ])>

   指導者としてのキャリアは、選手としてと同様フェホヴィアリアから始まる。2002年4月、当時フィゲイレンセのアシスタンスコーチを務めていたが、サンパウロ州選手権3部で監督の解任が続くフェホヴィアリアから監督就任の打診を受け受諾。しかし、僅か8試合、2勝2分4敗の成績で5月半ばに解任。
   その後は、選手時代と同様、中堅クラブから徐々にキャリアアップを果たし、2007年に名門クルゼイロを指揮。州選手権で優勝を逃した直後、全国選手権開幕前に監督に就任すると、チームを見事に立て直し、終盤まで優勝争いに食い込み、最終的には5位でシーズンを終える。しかし、残り11試合の段階で優勝争いから脱落しリベルタドーレス出場圏も危うくなったことを理由に、シーズン終了後、契約は延長されずチームを去る。
   2009年、ヴァスコ・ダ・ガマを率い、全国選手権2部を制覇。選手、監督を通じて初めての全国規模のタイトルを獲得する。

<監督(2010[サントスFC])>

   2010年、前年の実績を評価されサントスFCの監督に招聘。
   当時のサントスFCには、FWホビーニョ(Robinho, 1984)、FWネイマール(Neymar, 1991)、MFパウロ・エンヒキ・ガンソ(Paulo Henrique Ganso, 1989)、左SBアレクサンドロ(Alex Sandro, 1991)が顔を揃える超攻撃的なチーム。
   ドリヴァウ・ジュニオール監督は周囲の期待に応え、1月17日~5月2日に開催されたサンパウロ州選手権に優勝。2月24日~8月4日に開催されたコパ・ド・ブラジルでも優勝を飾る。
   ところが、2020年9月15日全国選手権第22節アトレチコ・ゴイアニエンセ戦。サントスFCが後半38分にPKを獲得し、監督がFWマルセウ(Marcel, 1981)をキッカーに指名。すると、FWネイマールが激高し、試合中にも関わらず監督に罵声を浴びせる。
   この行為を規律違反行為とみなし、監督は翌節グアラニー戦でFWネイマールをベンチから外す。しかし、サントスFC幹部はこの監督の処置に不満を覚え、「Insubordinação((上位者・クラブに対する)命令違反、不服従、反抗)」との理由で監督を解任する。
   監督の最後の指揮となった第23節時点でサントスFCは全国選手権4位につけ十分に優勝を狙える順位にいたが、最終的には8位でシーズンを終了する。
   サントスFCはドリヴァウ・ジュニオール監督の指揮のもと制覇したコパ・ド・ブラジルで出場権を得た2011年リベルタドーレスに優勝。FWネイマールはすでにブラジル国内のみならず欧州でも知名度はあったが、リベルタドーレス優勝やクラブW杯でそのプレー映像が世界に流れ、更なる名声を得ることになった。

<監督(2010[アトレチコ・ミネイロ] - 2021[セアラー])>

   2010年はサントス解任後間もなくアトレチコ・ミネイロの監督に就任し、2部降格の危機を回避。
   以降は、シーズン途中で不振にあえぐ名門クラブで指揮を執る機会が続き、それぞれのチームで就任直後にチームを立て直すことに成功を収める。しかし、ブラジル特有の短期で監督交代を繰り返す悪しき慣習にあがなうことができず、長くても一年前後でチームを去るケースが繰り返される。

<監督(2022[フラメンゴ])>

   転機は2022年に訪れる。2022年6月10日にフラメンゴの監督に就任。フラメンゴは前年2021年にリベルタドーレス、全国選手権の両大会で2位の成績を残し、大きな期待を懸けられ2023年シーズンに突入したものの、スーペルコパ・ド・ブラジルに敗戦、州選手権で優勝を逃し、全国選手権もこの時点で14位と年初の期待を大きく裏切っていた。
   ドリヴァウ・ジュニオール監督は、4-4-2の布陣で、相手陣で最終ラインが起点となりボールを展開、ボールを奪われた際には素早くボールを奪い返し、ボランチを中心にセカンドボールの多くの回収。得点力の高いフォワード陣に、サイドバックやボランチが効率よく攻撃に参加し、想像力豊かな攻撃的MFが決定的なボールを前線に送るスタイルを確立。元々高いレベルで厚みのある選手層は、監督の戦術を通して一体感が生まれ、リベルタドーレスとコパ・ド・ブラジルのカップ戦の二冠を達成。
   全国選手権では、2023年にクリスタルパレス/ENGへ移籍したMFマテウス・フランサ(Matheus França, 2004)など育成カテゴリーから次々輩出される選手若手を中心に多くの控え選手に出場機会を与え、選手の成長を促しながらも、最終的には5位でシーズンを終えた。
   ところがフラメンゴはシーズン終了後、ドリヴァウ・ジュニオール監督との契約を更改せず、2023年に向けポルトガル国籍監督を招聘する。

<監督(2023[サンパウロFC])>

   2023年4月20日、ドリヴァウ・ジュニオール監督はサンパウロFCに監督として招聘される。サンパウロは慢性的な財政難のため効果的な補強が行えず、前任監督は自身が好む戦術をチームに落とし込むことができず試行錯誤を繰り返し、チーム成績は伸び悩んでいた。
   ドリヴァウ・ジュニオール監督は初采配試合で、CBルーカス・ベラウド(Lucas Beraldo, 2003)、VOLパブロ・マイア(Pablo Maia, 2002)、MFホドリゴ・ネストール(Rodrigo Nestor, 2000)など、下部組織出身の若手5選手を主力に交え先発に起用。ここに名前をあげた3選手はその後にレギュラーとして定着。監督はその後も若手選手や控え選手に出場機会を与え、前監督のもとではポジションを失っていたMFアリソン(Alisson, 1993)がやがてポジションを勝ち取る。
   全国選手権は第2節から指揮を執り、就任直後は好成績を収めたものの、多くの選手を起用し続けたこともあり、成績はやや頭打ちの状況に陥る。すると、クラブが主要大会で唯一タイトルを獲得していないコパ・ド・ブラジルに照準を絞ったチーム作りに切り替える。
   コパ・ド・ブラジルでは、5月17日(A)、6月1日(H)のベスト16、全国選手権2部エスポルチにPK戦にまで持ち込まれたものの、これを凌ぐと、準々決勝では前年全国選手権王者のパウメイラスを7月5日(H)1-0、7月13日(A)2-1と連勝で突破。準決勝コリンチャンス戦は7月25日(A)での1-2のビハインドを8月16日(H)2-0でひっくり返し決勝へ進出。
   決勝フラメンゴ戦1stレグ、9月17日(A)は前半45分のFWカレリ(Calleri, 1993)のゴールを最後まで守り抜き1-0の勝利。9月24日(H)2ndレグでは、前半43分に先制点を奪われたものの、その5分後の前半45+3分にMFホドリゴ・ネストールのゴラッソで1-1の同点。2試合合計2-1で試合を終えコパ・ド・ブラジルを制覇。
   ドリヴァウ・ジュニオール監督は、サンパウロFCにクラブ史上初のタイトルをもたらすとともに、異なるクラブでコパ・ド・ブラジル連覇を達成した。

<主要な獲得タイトル>

タイトルクラブ
2009全国選手権2部ヴァスコ・ダ・ガマ
2010コパ・ド・ブラジルサントスFC
2011ヘコパ・スウアメリカーナインテルナシオナウ
2022コパ・ド・ブラジルフラメンゴ
2022リベルタドーレスフラメンゴ
2023コパ・ド・ブラジルサンパウロFC

<若手選手の発掘・起用>

   前述のとおり、2010年サントスFC時代には、2023年末現在で3度のW杯出場を果たしているFWネイマール、ユヴェントス/ITAで数々のタイトル獲得している2022W杯代表SBアレクサンドロの2選手を当時10代でレギュラーとして起用。
   2017年サンパウロFC時代には、同年1月にトップチームに昇格していた当時19歳のCBエデル・ミリトン(Éder Militão, 1998, 現レアルマドリード/ESP)を8月6日全国選手権第19節バイーア戦で本職のセンターバックではなく右サイドバックとして起用。9月以降レギュラーとして起用するようになると、エデル・ミリトンは翌2018年8月にレアルマドリードへ移籍を果たし、2018年9月11日には右サイドバックとして代表デビューを飾った。
   2022年フラメンゴ時代は、2023年にウルヴァーハンプトン/ENGに移籍し頭角を現したVOLジョアン・ゴメス(João Gomes, 2001)をレギュラーに据える。
   同じく2023年にクリスタルパレス/ENGに移籍を果たしたMFマテウス・フランサ(Matheus França, 2004)については攻撃的な特長をさらに磨き上げ、同選手は年間26試合6得点の成績を残すに至った。
   さらには、欧州ビッグクラブから注目を集めているMFヴィクトル・ウーゴ(Victor Hugo, 2004)を37試合に起用、コパ・ド・ブラジル、リベルタドーレス両大会の優勝決定の瞬間をピッチの上で経験させ、同じく欧州注目のFWマテウス・ゴンサウヴェス(Matheus Gonçalves, 2005)にはデビューの機会を与え、プレー面でも自由を与えた。
   2023年サンパウロFCでは、2024年初めにパリSG/FRAに移籍し早くもポジションに定着したCBルーカス・ベラウド(Lucas Beraldo, 2003)を主軸に据え攻撃面ではビルドアップを任せた。
   また、前年にプリメイロボランチとして頭角を現していたVOLパブロ・マイア(Pablo Maia, 2002)には新たにセグンドボランチとしてのタスクを与えプレー範囲を広げることに成功。パブロ・マイアについては現時点で欧州2024/25シーズンを前にウェストハム/ENGが獲得を目指しているという噂が拡がっている。

【戦術・スタイル】

   2010年のサントスFCなど僅かなケースを除き、多くはシーズン途中に監督に就任。就任直後は即座にチームを立て直し勝点を積み上げるものの、一度つまずくと連敗を重ね、監督を解任される。
   (ブラジルの名門クラブでは、上記の2007年クルゼイロ時代のドリヴァウ監督のように、就任当初の期待を上回り、上位争いに加わったとしても、タイトルやリベルタドーレス出場権の獲得が監督続投のほぼ絶対的な条件となっており、連敗を重ね、タイトル獲得やリベルタドーレス出場が危ぶまれる状況に陥ると即座に解任されることが多い。ドリヴァウ監督はかつて指揮を執ったほとんどのチームで高い勝点獲得率や勝率を残しているものの、他のブラジル監督と同様、一年以上同一チームで監督を務めるケースはほとんどない。)
   チームの立て直しは、現有戦力をトレーニングや試合への起用で十分に分析し、手始めに応急処置としてチームを守備面で再構築している。自身がボランチだったためか、近年のフラメンゴやサンパウロFCではボランチを軸にチームを再構築しているように見うけられる。
   フラメンゴでは、ジョアン・ゴメス(João Gomes, 2001)とVOLチアゴ・マイア(Thiago Maia, 1997)をツーボランチの主軸に据えた。
   いずれもボール奪取力が高く、守備面での的確なポジション取りが特長。シーズンを深めるにつれ、VOLジョアン・ゴメスは高い位置でのマークやセカンドボールの回収、ゴール前への飛び出しなどの攻撃参加が役割として付加され、VOLチアゴ・マイアはVOLジョアン・ゴメスに連係した動きでその一列後ろのスペースを埋め、攻撃面では守→攻へのつなぎ役となる場面が増していった。
   サンパウロFCでは、ボール奪取に優れたプリメイロボランチのVOLパブロ・マイアを軸に据え、高い位置でのマークや、前後のボールのつなぎ役となるセグンドボランチには複数の選手を試した末、VOLアリソンを抜擢。
   監督就任当初は中盤で2~3人の選手が相手陣で相手ボール保持者を囲み、その後方でVOLパブロ・マイアが相手が苦し紛れに出すパスや、ディフェンダーが引っ掛けたボールを回収する役割を務めた。次第に出場機会を増やしていったVOLアリソンは中盤での囲い込みで相手ボール保持者がボールを出せるコースを限定することで後方のVOLパブロ・マイアの負担を減らし、攻撃面では相手陣でのボール奪取後のイニシアティブをとるようになる。
   シーズンが深まると、監督はVOLパブロ・マイアに積極的に高い位置を取ることを指示し、ミドルシュートによる得点を期待するようになる。
   いずれのチームでもセンターバックがビルドアップを務める。フラメンゴではセンターバックにスピードがあったため、両サイドバックが高い位置をとり、両センターバックとボランチが三角形を作り攻撃の起点となる。サンパウロFCでは、両センターバックにスピード面で不安があったため、サイドバックの一翼が両センターバックとラインを合わせ、3-1、または、3-2の形を作りマイボールを展開する場面が多く見られた。
   フォワード陣には得点力の高いセンターフォワードを軸に置き、フラメンゴではスピード豊かなセカンドトップを配置、速いパス交換や細かな選手の動きの中から守備網を崩した。一方、サンパウロFCでは、ウィングやサイドバックのオーバーラップなどサイドからの攻撃を多用した。

【代表監督として】

   これまでの監督歴では、戦術のベースを持ちつつ、現有戦力を十分に把握し、その中で最適と思われるサッカーを構築していく例が多かった。
   また、若手選手の発掘にも優れ、代表監督というよりもクラブ監督への特性のほうが高いようにも思われる。
   しかし、代表では、自らの理想とするサッカーに適した選手を選出し、配置することができる。
   今回の招集では、継続性やブラジルサッカー連盟(CBF)の方針などの関係から、招集選手を大きく入れ替えることはないだろうが、どのような選手を選ぶのか気になるところ。
   前任監督のもとではチームとして機能することがほとんどなかった両サイドバックには誰が選出されるだろうか?(そして、試合ではどのようなタスクがあたえられるだろうか?)
   監督のサッカーの肝と言えるボランチは、フラメンゴ時代の教え子で今季ウルヴァーハンプトン/ENGで頭角を現したジョアン・ゴメスなど候補者も多く、特に注目したいポジションだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です