投稿日:2024/03/07
シジネイ・デ・カルヴァーリョ・ドゥアルチ
Sidney de Carvalho Duarte
ポジション:ボランチ
利き足:右
2006年7月21日生まれ
<幼少期>
ブラジル連邦共和国北東部地域州の一つ、バイーア州の州都サウヴァドールに所属する島イーリャ・デ・マレーに生まれる。 イーリャ・デ・マレーは、植民地時代の黒人奴隷がその立場から逃れ集まり自治を行った島。現在は、漁業を営む住民が多く、また、クリスタルブルーに輝く海や海岸、黒人文化の伝統を色濃く残した風習が観光スポットとなっている。
シジネイは5歳の時、地元で父が主催するサッカースクール「グレミオ・イーリャ・デ・マレー」でサッカーを始める。 2018年2月、11歳の時、親善試合での活躍により推薦されたセレクションを経て、本土の社会支援プロジェクトが主催するチーム「エストレラ・デ・マルソ」に入団。週3回のトレーニングの日には家を朝5時に出て夜7時に帰る生活を続ける。
2018年の終わりに、エストレラ・デ・マルソとECバイーアU-13チームとの親善試合にボランチとして出場すると、その活躍がECバイーアU-13チームの監督、コーチ陣の関心を呼ぶ。 2019年(年初12歳)になり入団テストを受けると、即日、ECバイーア下部組織への加入が決まる。
<クラブ経歴>
≪育成時代≫
入団テストの翌日には、ECバイーアU-13チームで試合に途中交代出場。大会が進むにつれシジネイはスタメンとして試合に起用されるようになる。
その後は次々とカテゴリーを上げていき、2023年(年初16歳)にはU-20チームに昇格。
≪バイーア≫
– 2023 –
2023年2月11日、U-20監督(前年はU-17監督)のホジェリオ・フェヘイラ(Rogério Ferreira)監督が監督代行として指揮を執るトップチームのバイーア州選手権第8節でベンチ入りを果たすと、後半26分にピッチに送り出され、クラブ史上3番目の最年少記録となる16歳7か月でのプロデビュー。この試合は、20分近くの出場時間で95%以上のパスに成功、1本の決定的なパス、1本のシュートを記録した。 U-20チームの試合に出場することなく一足跳びでトップチームにデビューする珍しいケースだった。
2月26日州選手権第9節では、スタメンに起用されキャプテンマークを腕に巻き出場。この試合は第8節に引き続きターンオーバーにより控え選手が中心のチームだったとはいえ、クラブ史上最年少でゲームキャプテンを務めることになった。
2023年3月にU-20全国選手権が開幕すると、10チームで構成されるグループラウンドの全9試合にスタメン出場、うち8試合にフルタイム出場、チームは4勝2分3敗のグループ5位で僅かに決勝ラウンド進出を逃がす。 U-20全国選手権敗退後は、U-17チームに合流し、U-17州選手権の準決勝、決勝の各ホーム&アウェイの2試合、計4試合に出場。チームのU-17州選手権優勝に貢献する。
8月16日に初戦を迎えたU-20コパ・ド・ブラジルにもまた主軸として連戦に出場。準決勝で敗退するまでのチーム全7試合すべてにスタメンとして出場。この大会では1得点を記録した。
U-20コパ・ド・ブラジル敗退後には、U-17W杯の代表メンバーとして追加招集を受け、2023年11月10日にインドネシアで開幕したU-17W杯に出場。チーム全5試合のすべてにスタメン出場、1アシストを記録した。
– 2024 –
2024年(年初17歳)は、1月開催のU-20全国大会カップ戦に出場。しかし、グループラウンドの2試合に出場したところで、トップチーム監督ホジェリオ・セニ(Rogério Ceni)監督の要請でトップチームのイングランド遠征に招集される。
帰国後は、ケガで約一か月間チームから離脱した影響もあり、(2024年3月7日現在)州選手権の3試合97分の出場にとどまっている。
≪シーズン別クラブ出場記録≫
シーズン | 所属 | 大会 | 試合 | 出場 時間 | 得点 | アシ スト |
---|---|---|---|---|---|---|
2023年(17歳) | バイーア | 州選手権 | 2 | 109 | 0 | 0 |
合計 | 2 | 109 | 0 | 0 | ||
2024年(18歳) | バイーア | 全国選手権 | – | – | – | – |
州選手権 | 3 | 97 | 0 | 0 | ||
合計 | 3 | 97 | 0 | 0 |
イタリック斜体は、2024年3月7日現在の記録。 ※ シーズン欄の年齢は、12月31日時点の年齢です。
<代表(世代別含む)経歴>
– 2023 –
2023年6月7日、南米U-17選手権終了後初、そして11月開幕のU-17W杯に向けた初めてとなる代表合宿の招集メンバー23選手の一員として招集を受ける。シジネイ自身初の世代別代表への招集となった。 しかし、その後3度に渡り行われたU-17代表合宿へはいずれも選外となる。
【2023U-17W杯】
2023年11月10日にインドネシアで開幕する2023U-17W杯代表に追加招集。
下表「節」欄のリンクは、当ブログの記事にリンクしています。記事内には、当該試合の出場&控えメンバー(ブラジルU-17代表のみ)、試合経過、得点シーン中心の動画、所感を掲載しています。
試合日 | 節 | 対戦 相手 | 試合 結果 | 出場 時間 | 得点 | アシ スト |
---|---|---|---|---|---|---|
2023/11/11 | 予選第1節 | イラン | 2 – 3 | 90 | 0 | 0 |
2023/11/14 | 予選第2節 | ニューカレドニア | 9 – 0 | 59 | 0 | 1 |
2023/11/17 | 予選第3節 | イングランド | 2 – 1 | 89 | 0 | 0 |
2023/11/20 | 決勝一回戦 | エクアドル | 3 – 1 | 90 | 0 | 0 |
2023/11/14 | 準々決勝 | アルゼンチン | 0 – 3 | 74 | 0 | 0 |
合計 | 16 – 8 | 437 | 0 | 1 |
開幕節イラン戦にツーボランチの右サイドでスタメンに抜擢。試合は逆転負けを喫したものの、守備面でのポジションニングはほぼ的確、攻撃時にはCBがビルドアップを担ったこともあり中盤で相手ライン間にポジションをとり、前線とのつなぎ役を務めた。
以降もスタメンの座を守り、予選第2節ニューカレドニア戦では、前半39分にペナルティエリア右手前でフリーのFWエステヴォンへボールを送ると、FWエステヴォンがゴール左隅へゴラッソ。シジネイにアシストが記録された。
大会を通じて、自陣での守備では的確なポジショニングと秀でたボール奪取力を披露。相手陣に押し込む局面ではセカンドボールの回収や積極的なミドルシュート、ミスの少ないパス交換、ワンツーを使ったペナルティエリアへの侵入など、攻守に自身の特長を示すプレーを随所に見せた。
<プレースタイル、エピソード、雑感 etc.>
利き足は右。 身長168㎝、体重不明。(サッカーサイト「transfermarkt」2024年3月4日参照) 主なポジションはボランチ(プリメイロボランチ)。
幼い頃から身長はあまり高くなく細身。2024年現在は体幹や脚に強靭さが見られ成長の跡が見られるものの、ボランチとしては小柄な部類に入る。しかし、ピッチ上では、俊敏に相手の懐に入り巧みにボールを奪い、タイミングのいいスライディングタックルで次々とピンチの芽を摘み、体格的なハンディキャップを感じさせることがほとんどない。
プリメイロボランチというポジションの特性上、自陣での守→攻の切り替わりのタイミングでボールに触れる機会が多いが、相手が激しいプレスを仕掛ける局面でも平静さを保ち、ボールを受ける態勢にある味方選手を瞬時に探し出し正確にパスを通していく。また、縦の鋭いパスや、相手陣でサイドを上がるウィングへの配球、ボール奪取後に素早く相手守備ライン裏へスルーパスを送り出すプレーなども見られ、戦術的な視野の広さや、力強くボールを蹴り正確にパスを送る技術の高さが垣間見られる。
性格は真面目でかなりの負けず嫌い。公式戦だけでなく、トレーニングでのミニゲームや、実家に帰った時の幼馴染との遊びでも、負けることが許せない性格。しかし、常に冷静沈着さを持ちあわせ、自身をコントロールするだけでなく、チームメイトに声をかけ、チームにも落ち着きを与えていく。試合中にチームを引っ張っていく振る舞いだけでなく、トレーニングでサッカーに取り組む姿は、監督やコーチスタッフ、年齢を問わず他選手からの人望も厚く、わずか16歳で(控え選手が中心とはいえ)トップチームのゲームキャプテンを任せられた。
2024年3月初めのインタビューでホジェリオ・セニ監督は、シジネイについて、『試合では素晴らしいパフォーマンスを発揮し、将来性に溢れたプレーを見せている。しかし、現在の足元の状況を考えると、まだ足りない部分もあり、トップチームの試合に十分に準備できているとは言い難い。繰り返しになるが、将来性という観点で見れば素晴らしい資質を備えた選手で、日々のトレーニングでは全力でサッカーに取り組んでいる。しかし、我々は冷静さを失わず、シジネイが消耗してしまうことのないように育てていく必要がある。
3月にはU-20の大会も始まり、トップチームでトレーニングを積みながら、U-20チームの試合に出るようになると思うが、多くの試合経験をU-20チームで積むこともシジネイの成長にとっては重要なことだと思う。』と話した。
2024年のバイーアトップチームは、2023年にシティフットボールグループ傘下に参画したことで、主力選手の流出に悩まされ続けた過去とは異なり多くの主力選手の残留に成功。のみならず、中盤では、2023年にフォルタレーザでブレークしたVOLカイオ・アレシャンドレ(Caio Alexandre, 1999)をパウメイラスとの競合の末獲得に成功。2022W杯代表MFエヴェルトン・ヒベイロ(Éverton Ribeiro, 1989)をフラメンゴから、リヨン/FRAやモナコ/FRAで活躍したMFジアン・ルーカス(Jean Lucas, 1998)をサントスから獲得。
全国選手権で優勝争いに加わることも不可能でない厚い選手層の中でベンチを温める日々を送るよりも、トレーニングでの課題を解消し、トップチームの選手から得たインスピレーションを具現化するためにも、U-20チームの試合を活用することが有効だとホジェリオ・セニ監督も考えているのだろう。
これまでは将来性を評価されてトップチームの試合への出場機会を得てきたが、これからは将来性ではなく現状のプレー内容が評価されることによって出場機会を勝ち取る必要がある。 日々成長していき、再びトップチームの試合で見せる勇姿を楽しみにしたい。
幼い頃からの憧れで目標とする選手は、シャビ・エルナンデス(Xavi Hernández)。父から、メッシではなくシャビを見ろ、と言われたことが影響している。
シャビはあるインタビューの中で「僕の場合は(個の力で違いを作り出すタイプでなく)自分を表現するためにはチームが必要だった」と話している。バルセロナ下部組織から意思統一されたチームの中で成長、才能が培われ、トップチームや代表チームでの活躍から、史上最高のミッドフィールダー、スペイン史上最高の選手とも呼ばれる偉大な選手となった。 しかし、多くの選手は自身のプレースタイルと監督の戦術の間に挟まれ、自身の才能を発揮することができずサッカー人生を終える選手は多い。
近年はフィジカルが重視され、スプリントの回数や一試合での走行距離が格段に増え、プレーのインテンシティも大幅に高まり、クラブや代表チームに関わらず、サッカーのスペクタクルが失われ、体をぶつけることに重点を置いた当たりの強さや、投げられたボールを追いかけるイヌのようなスピードを偏重するチームもしばしば目にする。
このような状況に身を置くシャビは、「スペクタクルとは適切なコントロールであり美しいキックだ。また違いを作り出すラストパスであり、鮮やかなフィニッシュであり、空中戦での見事な予測であり、洗練された守備のアクションであり……。すべては才能のなせる業だ。」と話し、最後にこう付け足す。「今も才能がフィジカルに勝つと思っている。」
シジネイの将来の夢はチャンピオンズリーグを戦うこと。 170㎝に満たない身長は世界的な潮流となっているフィジカル勝負ではハンディキャップとなる。しかし、シャビが表現する"適切なコントロール"や"美しいキック"、"洗練された守備のアクション"といった才能はすでにECバイーアでのプレーの中で垣間見えている。 ECバイーアで基礎を固め、欧州に旅立ち、フィジカルより才能に重きを置く監督やチームに巡り合う「運」に恵まれ、そして、チャンピオンズリーグ出場という夢を叶える日を一日も早く迎えてもらいたい。