2023月4月14日にブラジル全国選手権が開幕。
各州選手権がほぼ終了。コパ・ド・ブラジルやリベルタドーレス、コパ・スウアメリカーナも開幕しており、それらの成績と昨年の実績、選手の移籍等を踏まえ独断と偏見で各クラブの戦力診断。
第1弾は上位争いを展開すると予想する10クラブ。
優勝候補(3チーム)
パウメイラス
2022年:全国選手権優勝、サンパウロ州選手権優勝。
2023年:サンパウロ州選手権優勝、スーペルコパ・ド・ブラジル優勝。
アベウ・フェヘイラ(Abel Ferreira)監督の戦術がチームに浸透しており、チーム力は高いレベルで安定。
中盤で中核をなしたグスタボ・スカルパ(Gustavo Scarpa, 1994, 現ノッティンガムフォレスト/ENG)、ダニーロ(Danilo, 2001, 現ノッティンガムフォレスト/ENG)が移籍退団したものの、トップチームには才能の宝庫と化している下部組織からFWエンドリッキ(Endrick, 2006)、FWジョヴァーニ(Giovani, 2004)、VOLファビーニョ(Fabinho, 2002)など次々と人材が供給。レギュラー、準レギュラー、若手選手の間で厳しい競争が繰り広げられており、チーム力の底上げは見受けられるが著しい戦力ダウンは見られない。
文句なしに優勝候補の最有力。
フルミネンセ
2022年:全国選手権3位。リオデジャネイロ州選手権優勝。
2023年:リオデジャネイロ州選手権優勝。
間もなく就任1年を迎えるフェルナンド・ジニース監督のもと、人もボールも動く戦術が浸透しさらに進化。
2022年得点王&ベストイレブンのFWヘルマン・カーノ(Germán Cano, 1988)、2022年ベストイレブンVOLアンドレ(André, 2001)、守護神ファビオ(Fábio, 1980)など前年の主力メンバーがほぼ残留。U-20南米ユース選手権で個人的に驚かされたアレキサンデル(Alexsander, 2003)など若手選手の突き上げもありチーム力は向上。レアルマドリードで一時代を築いた元ブラジル代表マルセロ(Marcelo, 1988)が2月末に加入。4月に入り3試合に出場したが違いを作るプレーを見せる。
チームの真価を問われる州選手権決勝戦2ndレグでは、1stレグの0-2を跳ね返す4-1のスコアで勝利。得点差だけでなく試合内容でもフラメンゴを圧倒し優勝。チームの進化を印象付けた。
唯一の懸念は、チーム戦術が多くの運動量を必要とするため、厳しい日程に足元をすくわれること。選手層の厚みも増しているが、些細なミスがチームの精密な歯車を崩す可能性もあり、選手起用、選手交代で監督の手腕が試される。
試合内容が面白く個人的に最も観戦したいチームの一つ。
フラメンゴ
2022年:全国選手権5位、コパ・リベルタドーレス優勝、コパ・ド・ブラジル優勝。
2023年:ヘコパ・スウアメリカーナ準優勝、スーペルコパ・ブラジル準優勝、リオデジャネイロ州選手権準優勝。
主力メンバーはほぼ残留。2022年全国選手権ベストイレブンに選出されたジョアン・ゴメス(João Gomes, 2001, 現ウルヴァーハンプトン)が移籍退団するが、2021年途中までフラメンゴでプレーしたジェルソン(Gerson, 1997)をマルセイユ/FRAから獲得。2022シーズン終盤以降はターンオーバーで起用される下部組織出身の若手選手が頭角を現しつつある。
2022年はカップ戦二冠を達成したがシーズン終了後に監督交代を発表。しかし、2023年は全国選手権までに獲得の可能性のある5つのタイトルをいずれも逃し監督を更迭。元アルゼンチン代表監督でブラジルでは3チーム目の指揮となるホルヘ・サンパオリ(Jorge Sampaoli)氏の監督就任が開幕目前に決定しチームの仕切り直しを図る。
現有戦力はリーグ屈指なだけに、サンパオリ監督の戦術が浸透し歯車が嚙み合えば十分に優勝を狙える。
リベルタドーレス出場圏争い(7チーム)
アトレチコ・パラナエンセ
2022年:全国選手権6位、コパ・リベルタドーレス準優勝。
2023年:パラナ州選手権優勝。
名将ルイス・フェリピ・スコラーリ(Luiz Felipe Scolari)監督が昨シーズン終了後に退任。アシスタンスコーチを務めたパウロ・トゥーハ(Paulo Turra)氏が後を継ぐ。
昨シーズン終盤にレギュラーを務めた左SBアビネル・ヴィニシウス(Abner Vinícius, 2000, 現レアルベティス/ESP)など一部の主力選手が退団するが、左SBペドリーニョ(Pedrinho, 2002)などの若い選手が十分に穴を埋め州選手権を危なげなく制覇。7月にヴィトル・ホッキ(Vitor Roque, 2005)が移籍する可能性は高いが、層が厚くバラエティに富んだプレースタイルのFW陣でカバーできるはず。
ブラジル国内の下馬評はあまり高くはないが、昨年からベースとなる戦術が継続、新監督によるアクセントが加味され完成度は高い。
アトレチコ・ミネイロ
2022年:全国選手権7位。スーペルコパ・ブラジル優勝。
2023年:ミナスジェライス州選手権優勝。
FWフッキ(Hulk, 1986)が健在、全国選手権開幕前の15試合に出場、14得点2アシストをマーク。バイエル・レバークーゼン/GERからレンタルで獲得したパウリーニョ(Paulinho, 2000)も16試合に出場、6得点5アシストを記録。中盤の攻撃的なポジションには粒ぞろいの選手が揃い層が厚い。CBにはフェネルバフチェ/TURから獲得したレーモス(Lemos, 1995)が広い守備範囲を誇り攻撃の起点となる足元の技術を持つ面白い存在。少しボランチ、サイドバックに不安を残すがシーズン途中にはSBギリェルミ・アラーナ(Guilherme Arana, 1997)が復帰予定。補強を通し各ポジションに高いレベルの選手が揃う。
2019年にラシン・クラブ/ARGでアルゼンチン選手権のタイトルを獲得したエドゥアルド・クーデ(Eduardo Coudet)監督の手腕に期待が高まる。
ヴァスコ・ダ・ガマ
2022年:全国選手権2部3位。
2023年:‐
2022年9月の総会で会社組織への改編およびその株式の70%を777パートナーズに売却する決議を採決。(※777パートナーズ:アメリカの投資会社。2021年にジェノア/イタリアを買収。セビージャ/スペイン、スタンダール・リエージュ/ベルギー、レッドスター/フランスなどに出資。)
2022シーズン終了後早々に、ボール保持率を高め、人もボールもよく動くサッカーを攻撃な戦術を標榜するバルビエリ(Barbieri)監督の就任を発表。監督の意向を踏まえた補強を積極的に進め、新加入選手に加え下部組織在籍・出身選手も積極的に起用。起用された選手の多くは次々と結果を残していく。
州選手権での4敗のうち1敗はフルミネンセ、2敗はフラメンゴ。上位チームに力負けした形だが、今後のチームの熟成と若手選手の飛躍があれば十分に逆転する可能性はある。
とはいえ、2023年シーズンはバルビエリ監督就任と全国選手権1部復帰の1年目。2024年シーズン以降への中長期の躍進を見据えた準備期間の一年と位置付けられているような気がする。
フォルタレーザ
2022年:全国選手権8位。
2023年:セアラー州選手権優勝。
全国選手権開幕前の段階で、2022年途中加入のFWチアゴ・ガリャルド(Thiago Galhardo, 1989, 2017アルビレックス新潟)が24試合11得点3アシスト、コロコロ/CHIから獲得したFWルセロ(Lucero, 1991)が20試合12得点6アシスト。2022年のチーム得点ランキング2位のモイゼス(Moisés, 1996)、複数のタイトルを持ち海外経験もあるペドロ・ホッシャ(Pedro Rocha, 1994)も虎視眈々とレギュラーの座を狙う。最終ラインは前年メンバーが残留。ボランチには躍進著しいエルクレス(Hércules, 2000)、中盤前目にはリーベルプレート/ARGから獲得したポシェチーノ(Pochettino, 1996)がそれぞれ定着。的確な補強と競争でチーム力をあげている。
フォルタレーザは紹介記事(クラブ紹介:フォルタレーザ (Fortaleza))で紹介したようにクラブ改革を進め、クラブ、サポーターが一体となり着実な成長を遂げており、2021年の4位を上回る成績も期待できる。
コリンチャンス
2022年:全国選手権4位、コパ・ド・ブラジル準優勝。
2023年:‐
2022年シーズン終了後に監督を交代。監督として初めて指揮を執るフェルナンド・ラザロ(Fernando Lázaro)氏を招聘。
2022年に比較的大きな補強を進めたため2023年の選手の入れ替わりは少なく、高いレベルで戦力を維持。ヘナト・アウグスト(Renato Augusto, 1988)の存在が大きく、23年全国選手権開幕前のチーム15試合のうち試合出場時7勝4分無敗に対し不在時は0勝1分3敗。全国選手権開幕を目の前にしたリベルタドーレスで手術を要するケガを負い選手権の初めの数試合での欠場が濃厚。下部組織に将来性の高い選手を抱えるが、ポジションごとに層の厚さが大きく変わり、特に両SBファギネル(Fagner, 1989)、ファビオ・サントス(Fábio Santos, 1985)が絶対的なレギュラーに君臨し、控えの層が薄い。
上記3選手のレギュラーの座を脅かす選手が現れるかがチーム力向上のカギとなるように思われる。
グレミオ
2022年:全国選手権2部準優勝。リオグランデドスル州選手権優勝。
2023年:リオグランデドスル州選手権優勝。
2023年は前年終盤に引き続き、ヘナト・ガウーショ(Renato Gaúcho)監督が指揮。2016年コパ・ド・ブラジル、2017年リベルタドーレスをグレミオで制しており、フロントやサポーターからの支持は厚い。
CBのレギュラーとして両大会制覇に貢献したカネマン(Kannemann, 1991)が2023シーズンのチームを牽引する。ウルグアイ代表でバルセロナなどヨーロッパでも名をはせたルイス・スアレス(Luis Suárez, 1987)を獲得。15試合11得点4アシストと期待通りの活躍をみせる。レギュラー陣が前年から半数以上が入れ替わる補強を実施。補強は年齢的に中堅以上の選手が中心で、昇格初年での上位争いを目指す。
昨シーズンチーム得点ランキング2位ビテロ(Bitello, 2000)、パラグアイ代表のビジャサンチ(Villasanti, 1997)の両ボランチが、1部リーグでも通用するかが上位進出のカギを握るように思われる。
インテルナシオナウ
2022年:全国選手権2位。
2023年:‐
2022年は序盤の不振を建て直し全国選手権2位に躍進させたマノ・メネゼス(Mano Menezes)監督が継続して指揮を執る。
主力選手の退団はVOLエデニウソン(Edenílson, 1989)、GKダニエウ(Daniel, 1994)にとどめた一方、補強も積極的には行わず、2006年以来のクラブ復帰となるルイス・アドリアーノ(Luiz Adriano, 1987)を2月末に獲得。しかし、州選手権12試合8得点1アシストと好調のFWペドロ・エンヒキ(Pedro Henrique, 1990)と使い分けをしており、効果的な補強とは言えない状況だ。ダニエルの退団を機にレギュラーを掴んだGKケイレル(Keiller, 1996)は州選手権終盤は失点に結びつくミスを度々犯し、インテルのウィークポイントしてメディアでは取り上げられている。復調を期待したい。
全国選手権開幕前の戦績は前年のベースもあり7勝7分1敗。勝ち切れない試合が多く州選手権は準決勝でPK戦の末敗退。昨年と大きな変動のない戦力だが現状では上積みは少ないだけに、上記のルイス・アドリアーノとペドロ・エンヒキの共闘、ケイレルの復調次第で上位争いにも下位に低迷することも考えられるチーム状況だ。