2023月4月14日にブラジル全国選手権が開幕。
各州選手権がほぼ終了。コパ・ド・ブラジルやリベルタドーレス、コパ・スウアメリカーナも開幕しており、それらの成績と昨年の実績、選手の移籍等を踏まえ独断と偏見で各クラブの戦力診断。
第2弾は苦戦が予想される10クラブ。
中位争い(5チーム)
アメリカ・ミネイロ
2022年:全国選手権10位。
2023年:ミナスジェライス州選手権準優勝。
2022年全国選手権開幕後間もなく就任したヴァギネル・マンチーニ(Vágner Mancini)監督が引き続き指揮を執る。
2022年はシーズンを通して補強とチーム戦術の浸透を図り、得点力の向上と失点を減らすことに成功。アメリカ・ミネイロ規模の中堅上位クラブは選手の流動性が高くなりがちだが、2022年7月にレンタルで獲得、チームの躍進に多大な貢献をしたトップ下マルティン・ベニーテス(Martín Benítez, 1994)を完全移籍で獲得。その他にも2022年後半戦の好調を担った主力選手の流出を可能なかぎり抑えることに成功。両SBに経験豊かなニノ・パライーバ(Nino Paraíba, 1986)と2022年グレミオで10アシストを記録した攻撃的なニコラス(Nicolas, 1997)を獲得。
下部組織からは、クラブ所属選手として約50年ぶりに代表戦出場を果たしたU-20南米ユース選手権の優勝メンバーのアルトゥール(Arthur, 2003)が急成長。2005年生まれの期待のFWアジソン(Adyson)もトップチームに積極的に起用するなど、フロントと現場が今シーズンだけでなく中長期的な視野でチーム作りを進める。
州選手権決勝アトレチコ・ミネイロ戦でのホーム&アウェイの2試合は2-3、0-2で敗れたように、現状戦力では上位チームに力負けするかもしれない。しかし、そのアトレチコ・ミネイロ戦でも1stレグは序盤に立て続けに失点するも一度は同点に追いつき試合を優位に進めるなど、チーム力は確実に向上している。
ボタフォゴ
2022年:全国選手権11位。
2023年:‐
‐ クリスタル・パレス/イングランドの共同オーナー、アメリカ人実業家ジョン・テクスター氏が所有権の90%を獲得した2年目を迎える。1年目の2022年は年間を通して選手の獲得と売却(放出)を大胆に行い、1部昇格後ながら11位と健闘した。2023年も多くの選手を起用しながらも、GKルーカス・ペリ(Lucas Perri, 1997)、CBクエスタ(Cuesta, 1988)、VOLチェチェ(Tchê Tchê, 1992)、FWチキーニョ・ソアレス(Tiquinho Soares,1991)などある程度の軸になる選手が固まる。元コロンビア代表ハメス・ロドリゲス(James Rodríguez, 1991)の加入が噂されているが、2022年後半戦に活躍したジェフィーニョ(Jeffinho, 1999)を兄弟クラブのリヨン/FRAに売却しており、ジョン・テクスター氏へのサポーターの不信感は非常に大きい。
2023年州選手権は全国選手権3部のボウタヘドンダを下回り5位‐8位決定戦にまわるがなんとか5位は確保。コパ・ド・ブラジルを含め4連勝で勢いにのって全国選手権の開幕を迎える。
RBブラガンチーノ
2022年:全国選手権14位。
2023年:‐
2019年のレッドブルグループによる資本参加以来、2019年全国選手権2部優勝、2021年コパ・スウアメリカーナ準優勝と着実にチーム改革の成果を残してきた。しかし、2022年はセンターフォワード(CF)の世代交代の失敗、チームの要CBレオ・オルティス(Léo Ortiz, 1996)のシーズン後半の大ケガによる戦列離脱などがあり、全国選手権は14位に低迷、チームと共に成長したバルビエリ(Barbieri)監督は最終節を待たずにチームを去った。
2023年は新監督ペドロ・カイシーニャ(Pedro Caixinha)氏のもと再浮上を見据え、CBにポルトガルで8年プレーしたルーカス・クーニャ(Lucas Cunha, 1997)を獲得。CFにはアレハンドロ(Alerrandro, 2000)が定着。一方で2022年のチーム得点王SBルアン・カンジド(Luan Cândido, 2001)が相次ぐケガに悩まされるなど新たな問題も発生。
監督の戦術が十分に定着しておらず、コパ・ド・ブラジルは2回戦で敗退。その直後に行われた州選手権準決勝もPK戦の末敗退。さらには、全国選手権開幕前に、2022年チーム内得点ランキング2位のアルトゥール(Artur, 1998)をパウメイラスに4500万レアル(約12億円)で移籍するなど不安も残す。
登録選手の平均年齢が23歳前後の若いチームだけに勢いがつくと爆発する可能性もあるが、一度スランプに陥るとコパ・ド・ブラジルと州選手権の連敗や前年のように低迷する可能性も高い。レオ・オルティスとルアン・カンジドの復帰までは不安定な戦いが続くように思われる。
サントス
2022年:全国選手権12位
2023年:‐
かつての名門も、近年は重度の財政難のため積極的な補強を行えず、下部組織出身の選手を十分な移籍金を受け取れずに放出するなど悪循環に陥いる。2023年はその財政状況の中でベストの一人と思えるオダイール(Odair)監督を招聘。インテルナシオナウで2018年に全国選手権3位、2019年にはコパ・ド・ブラジル準優勝に導いた手腕に託す。
しかし、全国選手権に比べ戦力差の大きい州選手権で3年連続の予選ラウンド敗退。選手層が薄く、強いリーダーシップでチームを牽引する選手が見当たらず、マルコス・レオナルド(Marcos Leonardo, 2003)やアンジェロ(Ângelo, 2004)など将来を嘱望される選手を要するも成績が伴わない。
2月1日に、州選手権終了までの条件で2014-17年の4年間をサントスでプレーした10番タイプの元ブラジル代表ルーカス・リマ(Lucas Lima, 1990)と契約。2月中旬から試合に出場するようになると、それまでPKによる1得点と不振に陥っていたマルコス・レオナルドが7試合6得点2アシストと復調。ルーカス・リマの契約も全国選手権終了まで更新。チームもコパ・ド・ブラジルとコパ・スウアメリカーナで3連勝し調子を上げて全国選手権に挑めるといった明るい一面もある。
しかし、全国選手権の長丁場に見合った選手層ではなく、苦戦を強いられると予想する。
サンパウロ
2022年:全国選手権9位。コパ・スウアメリカーナ準優勝。
2023年:‐
2021年途中に監督に就任したホジェリオ・セニ(Rogério Ceni)氏が引き続き指揮を執る。
2022年の主力選手の約半数が退団し、2023年は既存選手と新加入選手の融合、戦力の底上げが喫緊の課題となる。
FW陣は、2022年チーム得点王カリェリ(Calleri, 1993)、2位のルシアーノ(Luciano, 1993)がそれぞれ残留するが、州選手権ではアトレチコ・ゴイアニエンセから獲得したウェリントン・ハット(Wellington Rato, 1992)、インテルナシオナウからレンタル加入のダヴィジ(David, 1995)を積極的に起用し選手層の底上げを図る。
CBは2022年の主力がほぼすべて退団。下部組織出身のベラウド(Beraldo, 2003)、アトランタ/USAから加入のアラン・フランコ(Alan Franco, 1996)、エクアドル代表アルボレーダ(Arboleda, 1991)がケガから復調しメンツは揃ったが層の薄さが危惧される。
州選手権は決勝ラウンド1回戦(ベスト8)でPK戦の末敗退し、チーム作りは発展途上の段階にあることが露呈。
なによりも、上位チームと異なり、財政難に陥っているクラブのチーム方針と、2年間指揮を執るセニ監督のもと選手が定着しないことが最も危惧される。
残留争い(5チーム)
クルゼイロ
2022年:全国選手権2部優勝。
2023年:‐
2022年は2002W杯得点王ホナウド・フェノーメノ(Ronaldo Fenômeno)氏が経営権を取得し断行したクラブ改革が1年で実を結び、圧倒的な内容で1部昇格、2部優勝を果たす。
前年の内容から州選手権では大きな期待がかけられた。しかし、全国選手権1部アメリカ・ミネイロに予選ラウンドとホーム&アウェイの準決勝の計3試合で3連敗を喫するなど、全10試合3勝3分4敗12得点11失点と大きく期待を裏切る。前年の2部で成功した「財政を重視し、オファーがあれば選手を売却し移籍金等のコストを抑えた適材適所の補強を実施。組織的なスタイルをチームに落とし込み選手一人一人にスタイルを理解させ、激しい選手の入れ替わりに対応し高いレベルでチーム力を維持」する方針が破綻。パウロ・ペツォラーノ(Paulo Pezzolano)監督は州選手権後解任された。
後任にポルトガル人のペパ(Pepa)氏を招聘したが、ブラジルでの指揮経験はなくその手腕は不明。就任後初戦のコパ・ド・ブラジル3回戦1stレグでは、前年全国選手権2部で最下位に沈んだナウチコに0-1で敗戦。僅か4ヵ月で前年リーグ戦の最終順位を覆された。
先行きが不透明な状態で全国選手権開幕を迎える。
クイアバ
2022年 : 全国選手権16位。マットグロッソ州選手権優勝。
2023年 : マットグロッソ州選手権優勝。
2023年はポルトガルの中堅チームで経験を積み、ブラジルでは初めての指揮となるイヴォ・ヴィエイラ(Ivo Vieira)氏を監督に招聘。
中堅上位クラブにありながら短期的なレンタル移籍やベテラン選手の単年契約を抑え、複数年契約や下部組織の強化を進める結果、守護神ヴァウテル(Walter, 1987)を中心に守備の主力選手は比較的多く残留。2部に降格したジュヴェントゥージで8得点を記録したイシドロ・ピッタ(Isidro Pitta, 1999)の獲得に成功するなど、適材適所で中長期的な視野をベースにした補強を進める。
クイアバを除くチームのレベルが高くないマットグロッソ州選手権は圧倒的な内容で優勝。イシドロ・ピッタが11試合6得点6アシストを記録するなどクラブの補強は的確で、イヴォ監督も納得のいくチーム作りができたように思われる。
しかし、先述のとおりマットグロッソ州選手権と全国選手権のレベル差は大きく、ブラジルで初めての指揮を執るイヴォ監督が全国選手権の他チームをどのように分析し、どのような対策を打ち、それがどの程度通用するかは全くわからない。クラブとして中長期的なヴィジョンをもち成長しているクラブだけに残留を期待したいが、残留争いに巻き込まれる可能性は高いであろう。
なお、クイアバは育成にも力を入れ始めているのだが、2023年4月15日~27日にスペインで行われるU-20親善試合に向けた代表メンバーにヒケウミ(Rikelme, 2003)が選出。クラブ史上初めて世代別代表選手を輩出することになった。
ゴイアス
2022年:全国選手権13位。ゴイアス州選手権準優勝。
2023年:ゴイアス州選手権準優勝。
2022年はベストイレブンに選出されたペドロ・ハウーウ(Pedro Raúl, 1996)の活躍もあり、コパ・スウアメリカーナ出場権を獲得する13位でフィニッシュ。2023年はさらに上位進出を目指しグート・フェヘイラ(Guto Ferreira)氏を監督に招聘する。
ペドロ・ハウーウのレンタル満了を始め約半数の選手が入れ替わったが、チーム2位のゴール数を記録したFWニコラス(Nicolas, 1989)、FWヴィニシウス(Vinícius, 1993)、SBアポジ(Apodi, 1986)、守護神タデウ(Tadeu, 1992)などの主力選手が残留。新加入のボランチ2選手が州選手権でレギュラーを掴むなど的確な補強を進める。
ゴイアス州選手権でのチーム得点数は、昨年の30得点を上回る37得点をマーク。多くの選手が得点を記録するなど攻撃的な戦術が行きわたる。ところが、州選手権決勝でPK戦の末アトレチコ・ゴイアニエンセに敗れると全国選手権を目前にクラブはグート・フェヘイラ監督を解任。全国選手権開幕を監督未定の状態で迎えることになる。
ゴイアスは2022年も3度の監督交代を行っており、毎年大幅に入れ替わる選手構成など、戦略的な継続性のないブラジルの典型的な中堅上位クラブ。2023年はコパ・スウアメリカーナに出場することから日程も厳しくなり残留争いに巻き込まれる可能性は高い。
コリチバ
2022年 : 全国選手権15位、パラナ州選手権優勝。
2023年 : ‐
ポルトガル人のアントニオ・オリヴェイラ(António Oliveira)氏を監督に招聘し上位進出を目指す。
中堅上位チームに特有の大量の選手の入れ替えが行われる中、2022年チーム内得点ランキング2位のFWアレフィ・マンガ(Alef Manga, 1994)、ヴェネズエラ代表CBシャンセロール(Chancellor, 1992)、下部組織出身で成長著しいSBナタナエウ(Natanael, 2002)が残留。
パラナ州選手権では、守備面は上記のシャンセロール軸にパウメイラスから獲得したチリ代表CBクスチェヴィッキ(Kuscevic, 1996)などの新加入選手を組み合わせ連携を深める。一方で、攻撃面ではベンフィカ/PORで控えに甘んじていた高さのあるFWホドリゴ・ピーニョ(Rodrigo Pinho)を獲得しサイドからの攻撃を多用、。初めの10試合を13得点4失点の好成績を収める。
ところが、決勝ラウンドに向け守備ラインを高く置き中央での崩しを狙う攻撃を試みると、攻守のバランスが崩れ2試合続けて3失点。州選手権も決勝ラウンド1回戦(ベスト8)で敗退する。
実力的に相対的に上位になる州選手権と相対的に下位になる全国選手権。全国選手権に向けてどのようなチームを作ってくるかわからないが、州選手権の結果を見る限り、厳しい戦いが待ち受けているように思われる。
バイーア
2022年:全国選手権2部4位。
2023年:バイーア州選手権優勝
2022年12月にシティフットボールグループが経営権を獲得、監督も早々に決定し次々と補強を実施。補強に費やした金額はクラブ史上最大の7000万レアル(約19億円)に達した。
2022年から在籍する選手や他の全国選手権1部クラブから30歳前後の選手を各ポジションに1-2人確保すると、将来性を見込む若い選手を中心に獲得をすすめ、下部組織からの内部昇格やシティフットボールグループ内ですでに獲得したブラジル人の若手選手をレンタルで供与した選手構成になる。その結果、チームはほぼ別チームに生まれ変わる。
監督にはベンフィカ/PORで育成に長く携わり、近年はエクアドル、メキシコのクラブの指揮を執ったヘナト・パイヴァ(Renato Paiva)氏が就任。パイヴァ監督は、他に全国選手権1部に出場するチームのない州選手権こそ優勝を飾ったものの、1部のチームも参加する地域リーグ、コパ・ド・ノルデスチでは2勝3分3敗で予選敗退。0-4、0-6の屈辱的なスコアで連敗を喫することがあるなど、若手育成のためにはあまり勝敗にこだわっていないかのような采配で全国選手権開幕を迎える。
シティフットボールグループ傘下の他のクラブは、各国の2部リーグに所属している場合も多く、バイーアもそれほど1部リーグに拘りがないようにも感じられる。
ブラジルで法的に国外就労が可能となる18歳を待ってマンチェスターシティが獲得したカイキ(Kayky, 2003)やジエゴ・ホーザ(Diego Rosa, 2002, 2019年U-17W杯優勝メンバー)など、将来性を期待してシティフットボールグループが獲得し送り込んだ選手が注目の選手になる。しかし、2022年からバイーアに在籍しフォワードとして1部昇格に貢献するも、今年はサイドバックとしてレギュラーを獲得、タンク型の体形で力強く、白く着色したドレッドヘアが印象的なヴィトル・ジャカレ(Vítor Jacaré, 1999)を個人的に注目している。